（２４）アメリカの独立とフランス革命　〜大西洋革命の時代〜

1776 年アメリカ合衆国がイギリスから独立、人民主権のうねりが高まる中、13 年後にフランス革命が起きます。

1804 年には中米で、初の黒人の共和国ハイティが独立しました。大西洋をはさむこれら一連の変革を「大西洋革命」という視点で見てゆきます。

　　　　　　　　　　　 　

写真　（画像クリックで拡大）	説 明 な ど
	＜�@時代と場所＞ 今日のテーマは「アメリカの独立とフランス革命」です。扱う時代は、18世紀半ばから19世紀初頭にかけて。 日本では、江戸時代後半。田沼意次のもとで経済は活性化し、都市が繁栄しますが、その後、幕府の財政建て直しのために松平定信が「寛政の改革」を行ないました。 大航海時代以後、アメリカはヨーロッパの植民地となっていました。そのうち北アメリカのイギリス植民地では、住民の間に本国政府への反発が高まり、遂に独立戦争が起こります。1776年には独立を宣言、やがて人民主権を掲げるアメリカ合衆国が誕生しました。 人民主権のうねりは西ヨーロッパにも達します。国家財政が悪化していたフランスで革命が起こり、それまでの絶対王政が崩壊したのです。これら一連の激動は「大西洋革命」と呼ばれています。 アメリカの独立とフランス革命という市民革命がなぜ起こったのか、またこの市民革命が、18世紀後半から19世紀初めにかけて大西洋の両岸で連鎖的に発生したのはなぜか考えていきましょう。
	＜�A今日のテーマ＞ ＜今日のテーマ＞ ・アメリカ独立革命： 独立の原因の一つとなった七年戦争がなぜ起こったか、また独立宣言の意義について学習します ・フランス革命： 絶対君主を批判する人権宣言について、また防衛戦争からナポレオンが登場する意義 ・大西洋革命： 大西洋の東西に共通した思想、二つの動きに共に関係した人物ラファイエット、そしてハイティ独立革命について見ます ＜年表＞ ・1756〜63　七年戦争（54〜63：フレンチ・インディアン戦争） ・1773　　　　ボストン茶会事件 ・1775　　　　アメリカ独立戦争（〜83） ・1776　　　　アメリカ独立宣言 ・1789　　　　フランス革命始まる ・1804　　　　ナポレオンの第一帝政（〜14） ・1804　　　　ハイティ独立 ・1810年代　ラテンアメリカ諸国の独立運動 七年戦争とは、今のポーランド南西部にあたるシュレジェン地方の領有をめぐるオーストリア対プロイセンの対立に、イギリスとフランスの対立が絡んだ多国間の戦争です。 アメリカにはイギリス、フランスの植民地があり、イギリス植民地はフランス植民地に囲まれていました。ヨーロッパでの対立はアメリカにも及ぶものでした。 北アメリカでは七年戦争に先立って戦争が起きました。フランスが先住民、いわゆるインディアンと同盟してイギリスと戦ったことから、フレンチ・インディアン戦争といいます。戦争はイギリスが勝ちましたが、これがアメリカ独立革命の一因になりました。
	＜�Bアメリカの独立（１）＞ 七年戦争、フレンチ・インディアン戦争は、フランスの敗北に終わり、フランスは北アメリカでの植民地を失いました。しかしイギリスも、戦争には勝ったものの、財政危機に陥りました。そのため、イギリスは、アメリカにあった植民地への課税を強化しました。 1765年には印紙法を制定し、植民地で発行される新聞や公文書などに課税しようとします。しかし、この法律は、植民地の代表が参加していない本国議会で一方的に決定されたため、植民地側は「代表なくして課税なし」との考えに基づきこれを拒否しました。 1773年には、アメリカ植民地向けの茶の輸入をイギリス東インド会社に独占させるという「茶法」が作られます。これが、北アメリカで住民の怒りに火を付けました。ボストンでは、住民が東インド会社の船を襲い、積み荷の茶箱を海に投げ捨てる「ボストン茶会事件」が起こりました。これに対し、イギリス本国は、ボストン港を閉鎖するなど、強硬な態度をとります。 翌年の1774年9月には、今までバラバラだった13の植民地の代表が集まり、第1回大陸会議が開かれました。
	＜�C独立戦争（２） ＞ ヴァージニア植民地議会では、パトリック・ヘンリーが「自由か死か」という演説を行ないました。1775年、レキシントンとコンコードでついに、イギリス本国とアメリカ植民地の間に武力衝突が起こります。イギリス軍に抵抗するため、軍隊が組織され、ジョージ・ワシントンが総司令官に任命されました。しかしこの頃、植民地の住人の中で、イギリスからの独立を望む人はまだ多数派ではありませんでした。 この時に独立の世論を盛り上げたのが、思想家トマス・ペインが書いた「コモン・センス」でした。「植民地の権利を守らないイギリス本国から、アメリカが独立するのは『常識』である」と説いたこの本は、15万部という大ベストセラーとなります。 こうして独立の気運は高まり、1776年７月４日に、「独立宣言」が発表されます。「独立宣言」は、すべての人間の平等、基本的人権や人民主権の理念をうたい、植民地の人民は自らの権利を守るために、自由で独立した国家を作るのだと述べています。 この後も、イギリスとアメリカの間で戦争は続きました。しかし、イギリスと対立するフランスやスペインなどが植民地側を支援したこともあり、ついにイギリスは、1783年のパリ条約で、アメリカ合衆国の独立を承認せざるをえなくなりました。 その後、アメリカ合衆国は、1787年に憲法を制定し、人民主権や行政・立法・司法の三権分立など、民主政治の基本的枠組みを決定しました。さらに、この憲法の規定に基づいて、ワシントンが初代大統領に選出されました。
	＜�Dアメリカの独立＞ 独立宣言の文中にある、「政府がこれらの目的にとって破壊的となる時には・･･それを改めまたは廃止し、新たな政府を設立…することは、人民の権利である」という部分は、抵抗権という思想を示すものです。独立運動の指導者たちは、この抵抗権を、「独立する権利」に読み換えました。独立宣言の内容は、後の民主主義国家のモデルとなって世界に広がりました。 しかし独立革命には限界もありました。主体となったのは先住民ではなく、北米では「クレオール」と呼ばれる、植民地生まれの白人たちでした。そのため、独立革命後も黒人奴隷制が存続したり、先住民を追いやる活動が継続しました。 ところでフランスはなぜアメリカの独立を支援したのでしょうか？七年戦争など18世紀のヨーロッパの戦争は、基本的に英仏の対立を軸に展開していました。そのため、アメリカの独立戦争は、フランスやスペインにとってイギリスをたたく絶好の機会と受け止めらたのです。ヨーロッパから義勇兵として参加したものもいました。義勇兵とは、戦争の意義に共鳴して参加する民間人のことです。 フランス人がアメリカの独立を支援したという経緯から、独立100周年の時、自由の女神像がフランスから送られました。しかしフランスは、アメリカの独立戦争を支援した結果、戦費の負担が国家財政に重くのしかかりました。それがフランス革命につながることになります。
	＜�Eフランス革命＞ 「アンシャン・レジーム（旧体制）」と呼ばれた18世紀のフランスには、旧い身分制度が強く残っていました。第一身分が聖職者。第二身分が貴族。第三身分が平民。第一身分と第二身分は特権階級として、税金が免除されていました。 1789年、国王・ルイ16世は、財政難を打開するため第一身分・第二身分への課税を考えました。しかし、彼らは強く反対し、国王に三部会の招集を求めました。三部会とは、第一、第二、第三のそれぞれの身分の代表を集めて話し合う、身分制の議会です。フランスでは、170年以上開かれていませんでした。 三部会がヴェルサイユ宮殿で開催されると、議決の方法をめぐり特権身分と第三身分が対立。第三身分の代表たちは、ヴェルサイユ宮殿のテニスコートに集まり、自分たちが真に国民を代表する国民議会であると宣言し、憲法制定まで解散しないことを誓います。これに特権身分からも合流する人々が増え、国王も表面的には国民議会を承認したのです。 一方で、国王は特権階級の保守派の人々と共に、武力で弾圧しようとする動きを始めます。1789年７月14日、これに対抗して、パリの民衆は、武器・弾薬の倉庫でもあったバスティーユ牢獄を襲撃。一方、農村では農民の反乱が起こり、全国各地に広がりました。 この動きに押されて1789年８月、国民議会は、ついに封建的特権の廃止を宣言。さらにすべての人間の自由と平等などをうたう「人権宣言」を採択します。これにより、フランスでは、君主が憲法に従う立憲君主制への道が開かれたのです。
	＜�Fフランス人権宣言＞ 封建的特権の廃止とはどういうことでしょうか。封建社会の特徴だった、貴族や農民、商人など身分の秩序が廃止されました。また、農民が領主に多額の年貢を納めるシステムも廃止されました。 以下は、人権宣言の内容をまとめたものです。 第１条「人は、自由かつ権利において平等なものとして生まれ、生存する」は、自然権の思想 第３条「いかなる主権の原理も本質的に国民に存する」は、主権は絶対君主ではなく国民にあるという、主権者の変化 第６条「すべての市民は、法の下の平等にある」は、法の下の平等 第11条「思想および意見の自由な伝達は、人のもっとも貴重な権利の一つ」は、思想・言論の自由 第17条「所有は、神聖かつ不可侵の権利」は、財産・所有権の思想です 人権宣言は、後の世界へ影響をおよぼし、明治維新にも影響しました。しかし、平等と言いつつも、アメリカ及びフランスの場合にも差別は残っていました。 例えば、選挙権は、25歳以上の資産のある男子に限られていました。このように、近代のデモクラシーには、性別、財産などでの差別、人種差別などがあったのです。
	＜�G続くフランスの混乱＞ ルイ16世は、立憲君主制を受け入れず、革命政権を倒そうと考えます。パリ市民と義勇兵は、1792年８月にパリの王宮を攻撃し、国王一家を幽閉しました。さらに９月、議会にあたる国民公会は、王政を廃止し、共和政を樹立しました。ルイ16世と王妃・マリー・アントワネットは、翌年、遂にギロチンにかけられ処刑されました。 国王処刑に衝撃を受けたヨーロッパ諸国は、革命政権を打倒するための対仏大同盟を結びます。これに対しフランスでは、都市の貧しい民衆に支持されていたジャコバン派が権力を握り、諸外国との戦争を戦ってゆきます。しかしジャコバン派が、反対党派を弾圧して処刑する「恐怖政治」を強行するなど、フランスの社会は混乱が続きました。 混乱を最終的に収めたのは、若き軍人ナポレオン・ボナパルト、後のナポレオン１世です。ナポレオンはオーストリア軍を破って、軍事の天才として国民的英雄となりました。 1799年、クーデターを起こし、政権を握り、さらに1804年には、国民投票によって皇帝の地位に就きました。
	＜�Hナポレオン＞ 王政から共和政になり、今度はナポレオンが皇帝になりました。共和政や人民主権はどうなったのでしょうか？ ナポレオンはコルシカ島の貧しい貴族の出身で、フランスが自由で平等な社会になったために軍人として出世できた反面、軍事的天才として権力を一手に握ろうとしました。ナポレオンはいわば、過渡期の人だったといえます。 近隣の君主国がフランス革命に対抗し、二度にわたり「対仏大同盟」を結成して、干渉戦争を行ないました。フランスでは革命を防衛するための愛国的な感情、ナショナリズムが高まりました。徴兵制が採用されて、強力な国民軍が組織されました。 ナポレオンは、国内の混乱を収めることで、革命のさまざまな成果を法律などで確かなものとしました。ナポレオンは、ヨーロッパの他の国に革命の成果をもたらそうと、解放戦争を行ないました。しかし、それはフランスの勢力圏を拡大する侵略戦争へと変質してしまいました。 また、ナポレオンは対仏大同盟の中心であったイギリスを孤立させるため、大陸ヨーロッパ諸国の対英貿易を禁止する「大陸封鎖令」を発令しました。これに従わなかったロシアを討伐しようと遠征を行ないましたが、これに失敗し没落してしまいました。
	＜�I大西洋革命＞ アメリカ独立とフランス革命を、「大西洋の両岸で起きた世界史的な変革」として見てみると、共通点や共通の背景が見られます。 その一つが、神に頼らず、理性で物事を判断してゆこうという啓蒙思想です。 イギリスのロックは、人民の安全や幸福に害を与える政府は取りかえることができるという抵抗権を主張しました。フランスのモンテスキューは立法、行政、司法の三権の分立を主張し、アメリカの憲法に影響を与えました。ヴォルテールは、絶対王政やキリスト教会の不合理なあり方を批判し続けました。 大西洋をまたいだ人の交流もありました。フランスの貴族ラファイエットは、アメリカの独立戦争で義勇兵として活躍。 帰国後、フランス革命に参加して、人権宣言を作る際、中心的な役割を果たし、「両世界の英雄」と讃えられています。
	＜�J独立国家ハイティ＞ 啓蒙思想をよりどころとした北アメリカとフランスの革命は、中南米にも波及していきました。 カリブ海に浮かぶイスパニョーラ島（当時はフランス領サント・ドマング）では、黒人奴隷の反乱が多発しました。もと黒人奴隷であったトゥサン・ルヴェルチュールは、反乱をフランスからの独立運動へと発展させました。その結果、1804年、アメリカ大陸二番目の独立国家ハイティが誕生しました。この国はまた、世界初の黒人による共和制国家でもあります。 この後、1810年から20年代にかけて、ラテンアメリカ諸国が次々と独立していきました。 フランス革命で掲げられた人権の思想が、カリブ海のフランス植民地に伝わり、ハイティは、黒人奴隷が自らを解放する運動の延長で、独立を果たしました。1776年のアメリカの独立から、1789年のフランス革命、1804年のハイティ革命、さらに1810年から20年代ラテンアメリカ諸国の独立に至る一連の革命を、大西洋革命といいます。
	＜�Kまとめ＞ ＜まとめ＞ �@アメリカ独立革命 �Aフランス革命 �B大西洋革命 一連の大西洋革命は、人権と民主主義の確立を求めるもので、その後の民主主義国家が生まれるモデルになっていきました。 しかしアメリカの場合は、白人植民者中心の独立であったため、独立後にも先住民が土地を奪われたり、黒人奴隷制が拡大したりしました。 フランスの場合は、近隣諸国への侵略戦争を引き起こしました。またナショナリズムが高揚して各国で国民軍が形成され、その後の世界で戦争の犠牲者数を激増させるという問題もありました。

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